日本の飲食店には、独特のマナーや文化があります。これらを理解することで、より快適に食事を楽しめるだけでなく、日本文化への理解も深まります。このガイドでは、訪日客の皆様が日本の飲食店で困らないよう、実用的なマナーとエチケットを詳しく解説します。
入店から退店まで:基本の流れとマナー
1. 入店時のマナー
入店前の確認事項
営業時間と定休日
日本の飲食店は、ランチとディナーの間に「準備中」の時間(通常14:00〜17:00)を設けていることが多いです。また、個人経営の店は週に1日以上定休日があることが一般的です。
営業時間や営業日は事前に調べることをおすすめします。
予約の有無
人気店や高級店では予約が必須の場合があります。特に週末や祝日は、予約なしでは入れないことも多いです。
入店時の挨拶
「いらっしゃいませ」への対応
店員の「いらっしゃいませ」という挨拶に対して、返事をする必要はありません。軽く会釈をするか、そのまま入店して問題ありません。
靴を脱ぐ場所
座敷席がある店では、靴を脱ぐ必要があります。靴は揃えて、つま先を外側に向けて置きましょう。
2. 席への案内と着席
席の選び方
カウンター席のマナー
- 荷物は足元か膝の上に置く
 - 隣の人との距離を保つ
 - 大声での会話は控える
 
テーブル席のマナー
- 指定された席に座る(勝手に席を選ばない)
 - 荷物は椅子の背もたれか足元に置く
 - テーブルの上に私物を広げない
 
おしぼりの使い方
提供されるおしぼり(濡れタオル)は手を拭くためのものです。顔や首を拭くのはマナー違反とされています。使用後は軽く畳んで、おしぼり受けに戻します。
3. 注文時のマナー
店員の呼び方
呼び出しボタンがある場合
多くのチェーン店では、テーブルに呼び出しボタンが設置されています。注文時はこのボタンを押して店員を呼びます。
呼び出しボタンがない場合
「すみません」と声をかけるか、軽く手を挙げて合図します。指を鳴らしたり、大声で呼ぶのは避けましょう。
注文の仕方
メニューの指差し
日本語が分からない場合、メニューを指差して注文することは全く問題ありません。多くの店員が理解してくれます。
人数分の注文
日本では、全員が何かを注文することが暗黙のルールです。「水だけ」というのは基本的にNGです。
4. 食事中のマナー
箸の使い方とタブー
絶対にやってはいけないこと
- 立て箸:ご飯に箸を立てる(仏事を連想させる)
 - 渡し箸:器の上に箸を渡して置く
 - 刺し箸:食べ物に箸を刺す
 - 寄せ箸:箸で器を引き寄せる
 - 箸渡し:箸から箸へ食べ物を渡す
 
正しい箸の置き方
箸置きがある場合はそこに、ない場合は箸袋を折って簡易箸置きを作ります。
食べ方のマナー
音を立てることについて
- 麺類(ラーメン、そば、うどん):すする音はOK、むしろ推奨
 - その他の料理:音を立てないように食べる
 
器の扱い方
- 小さい器(お椀、小鉢)は手に持って食べてOK
 - 大きい皿は持ち上げない
 - 器を重ねない(店員に任せる)
 
5. 支払い時のマナー
支払い方法の確認
レジでの支払い
多くの店では、テーブルで伝票を受け取り、レジで支払います。伝票をレジに持参して支払いましょう。
テーブル会計
高級店や一部の居酒屋では、テーブルで支払いを済ませることもあります。
チップについて
日本ではチップは不要です。むしろ、チップを渡そうとすると断られることがほとんどです。良いサービスへの感謝は「ごちそうさまでした」の言葉で伝えましょう。
6. 退店時のマナー
挨拶
「ごちそうさまでした」と言って退店します。これは料理を作ってくれた人、サービスしてくれた人への感謝を表す大切な言葉です。
テーブルの片付け
基本的に片付けは不要ですが、使用したナプキンは軽く畳んでテーブルに置きます。
飲食店タイプ別の特別なマナー
寿司店でのマナー
高級寿司店(カウンター)
注文の流れ
- おまかせが基本:職人にお任せするスタイル
 - 予算を伝えることも可能
 - 苦手なネタは事前に伝える
 
食べ方のマナー
- 手で食べても箸で食べてもOK
 - 醤油はネタ側に少しだけつける
 - ガリ(生姜)は口直し用、寿司につけない
 - 一口で食べるのが理想
 
してはいけないこと
- 香水をつけて入店(繊細な味を楪う)
 - わさびを醤油に溶かす
 - シャリを醤油に浸す
 
回転寿司
システムの理解
- レーンから直接皿を取る
 - タッチパネルで注文も可能
 - 皿の色で値段が異なる
 
マナー
- 一度取った皿は戻さない
 - 食べ終わった皿は重ねてOK
 - レーンに手を伸ばすときは周りに注意
 
ラーメン店でのマナー
券売機システム
使い方
- 入店前に券売機で食券を購入
 - 席に座って食券を渡す
 - お釣りの取り忘れに注意
 
注文のコツ
- 「大盛り」「トッピング」も券売機で購入
 - 間違えて買った場合は店員に相談
 
食べ方のマナー
音を立てて食べる
ラーメンはすすって食べるのが正しいマナーです。これは:
- 麺と汁が絡みやすくなる
 - 香りを楽しめる
 - 料理人への賛辞の表現
 
完食について
汁を全部飲む必要はありませんが、麺を残すのは避けたいところです。量が多い場合は、注文時に「麺少なめ」をリクエストできます。
居酒屋でのマナー
お通し(突き出し)システム
お通しとは
席料の代わりに提供される小さな料理(300〜500円程度)。拒否できない場合がほとんどです。
なぜあるのか
- 最初の飲み物が来るまでのつなぎ
 - 席料の代わり
 - 店の味を知ってもらうため
 
注文のマナー
最初の注文
「とりあえずビール」という文化があり、最初はビールを注文する人が多いですが、必須ではありません。
料理のシェア
居酒屋の料理はシェアが前提。取り皿を使って分け合います。
ラストオーダー
閉店時間の30分〜1時間前に「ラストオーダー」があります。追加注文はこの時までに。
焼肉店でのマナー
焼き方のルール
誰が焼くか
- グループに「焼き係」が自然に決まることが多い
 - 勝手に人の肉を焼かない
 - 自分のペースで焼いてもOK
 
焼く順番
- タン塩から始める(あっさりしているため)
 - 赤身肉
 - ホルモン類
 - 味の濃いタレ物は最後
 
食べ方のマナー
一人一皿ルール
焼いた肉は一度自分の皿に取ってから食べます。網から直接食べるのはNG。
サンチュの使い方
肉をサンチュ(レタス)で包んで食べる韓国スタイルも人気です。
カフェ・喫茶店でのマナー
長居について
混雑時の配慮
- 1杯で2時間の滞在は一般的
 - ただし混雑時は1時間程度で席を譲る配慮を
 - 追加注文することで長居しやすくなる
 
勉強や仕事
許可されている場合
- 電源やWi-Fiがある店はOKの場合が多い
 - ただし混雑時は避ける
 - 音が出る作業は控える
 
知っておくべきNGマナー
絶対に避けるべき行動
写真撮影のマナー違反
してはいけないこと
- 他の客を撮影:プライバシーの侵害
 - フラッシュ撮影:他の客の迷惑
 - 長時間の撮影:料理が冷める、他の客を待たせる
 - 店内の過度な撮影:店の許可なく内装を撮りまくる
 
正しい撮影マナー
- 自分の料理を手短に撮影
 - フラッシュはオフ
 - 動画撮影は最小限に
 
音に関するマナー違反
避けるべき音
- 電話での通話:店外で済ませる
 - 動画の音声:イヤホンを使用
 - 大声での会話:特にカウンター席では要注意
 - 子供の泣き声:一時的に外に出る配慮を
 
衛生面でのマナー違反
してはいけないこと
- 咳やくしゃみを手で覆わない
 - 香水のつけすぎ(特に寿司店、そば店)
 - 食べ残しを持ち帰る(専用サービス以外)
 - 外部の飲食物を持ち込む
 
文化的なタブー
箸に関するタブー(詳細)
仏事を連想させる行為
- 立て箸:死者への供物を連想
 - 箸渡し:火葬後の骨拾いを連想
 - そろえ箸:箸で食器を叩く
 
不潔とされる行為
- ねぶり箸:箸を舐める
 - 探り箸:料理の中を箸で探る
 - 移り箸:一度取ろうとした料理から別の料理へ
 
食べ方のタブー
器の扱い
- 重ね食べ:ご飯の上におかずを乗せる(丼物以外)
 - 犬食い:器に口をつけて掻き込む
 - ながら食べ:歩きながら、立ちながらの食事
 
便利な日本語フレーズ集
入店時に使うフレーズ
基本フレーズ
人数を伝える
- 「ひとり です」(Hitori desu):1人
 - 「ふたり です」(Futari desu):2人
 - 「さんにん です」(San-nin desu):3人
 - 「よにん です」(Yo-nin desu):4人
 
予約の確認
- 「よやく しています」(Yoyaku shite imasu):予約しています
 - 「〇〇です」([名前] desu):[名前]です
 
注文時に使うフレーズ
基本的な注文
注文する時
- 「これ ください」(Kore kudasai):これください
 - 「おすすめ は?」(Osusume wa?):おすすめは?
 - 「これ と これ」(Kore to kore):これとこれ
 
数量を伝える
- 「ひとつ」(Hitotsu):1つ
 - 「ふたつ」(Futatsu):2つ
 - 「みっつ」(Mittsu):3つ
 
特別なリクエスト
アレルギー・食べられないもの
- 「〇〇 アレルギー です」([食材] arerugii desu)
 - 「〇〇 ぬきで」([食材] nuki de):〇〇抜きで
 - 「にく たべられません」(Niku taberaremasen):肉が食べられません
 
量の調整
- 「すくなめ」(Sukuname):少なめ
 - 「おおめ」(Oome):多め
 - 「ハーフサイズ」(Haafu saizu):ハーフサイズ
 
会計時に使うフレーズ
支払い関連
会計を頼む
- 「おかいけい おねがいします」(Okaikei onegaishimasu):お会計お願いします
 - 「チェック プリーズ」(Chekku puriizu):会計お願いします(カタカナ英語)
 
支払い方法
- 「カード つかえますか?」(Kaado tsukaemasu ka?):カード使えますか?
 - 「げんきん で」(Genkin de):現金で
 - 「べつべつ で」(Betsubetsu de):別々で
 
感謝とお礼のフレーズ
必須フレーズ
食前・食後
- 「いただきます」(Itadakimasu):食前の挨拶
 - 「ごちそうさまでした」(Gochisousama deshita):食後の挨拶
 
感謝の表現
- 「ありがとう ございます」(Arigatou gozaimasu):ありがとうございます
 - 「おいしかった です」(Oishikatta desu):美味しかったです
 
支払い方法と会計システム
現金主義の理解
なぜ現金が主流なのか
日本では依然として現金払いが主流です。特に個人経営の店や老舗では、クレジットカードや電子マネーが使えないことが多いです。
現金のみの店の見分け方
- 入口に「現金のみ」の表示
 - 券売機がある店
 - 個人経営の小さな店
 
キャッシュレス決済
使える決済方法
クレジットカード
- 使える店:チェーン店、デパート、高級店
 - 使えない店:個人店、ラーメン店、立ち飲み屋
 
電子マネー
- 交通系IC(Suica、PASMO):コンビニ、ファストフード
 - PayPay、LINE Pay:加盟店で使用可能
 - QRコード決済:増加傾向にある
 
会計時の注意点
レシートの扱い
必ず確認すること
- 金額の確認
 - お釣りの確認
 - レシートは必ず受け取る(後で必要になることがある)
 
割り勘文化
日本式の割り勘
- 均等割りが基本(注文量に関係なく)
 - 1円単位まできっちり計算することも
 - 幹事がまとめて支払い、後で精算することも多い
 
トラブル回避のコツ
よくあるトラブルと対処法
言語の壁
対処法
- 翻訳アプリを活用
 - 写真付きメニューがある店を選ぶ
 - 指差しシートを活用
 - 英語メニューの有無を確認
 
待ち時間のトラブル
行列店での注意
- 待ち時間の目安を確認
 - 順番待ちリストに名前を書く
 - 整理券システムの理解
 - ピーク時間を避ける(11:30-13:00、18:00-20:00)
 
アレルギー・食事制限
事前準備
- アレルギーカードを用意(日本語で)
 - ベジタリアン/ビーガン対応店を事前にリサーチ
 - 宗教上の制限がある場合は、対応店舗を確認
 
緊急時の対応
体調不良
対処法
- 「きぶん が わるい」(Kibun ga warui):気分が悪い
 - トイレの場所を確認
 - 救急車が必要な場合:119番
 
忘れ物
対処法
- すぐに店に戻る
 - レシートを見せる
 - 「わすれもの しました」(Wasuremono shimashita)
 
特別な機会でのマナー
ビジネス会食
席次のルール
上座と下座
- 上座(かみざ):入口から最も遠い席、景色の良い席
 - 下座(しもざ):入口に最も近い席
 - ゲストや上司が上座に座る
 
乾杯のマナー
正しい乾杯
- グラスは相手より低くする(目下の場合)
 - 「かんぱい」と言って軽く合わせる
 - 乾杯前に飲まない
 
お祝いの席
誕生日・記念日
日本のサプライズ文化
- 事前に店に相談すればケーキの持ち込みOKの場合も
 - サプライズプレートサービスがある店も多い
 - 大声で歌うのは控えめに
 
接待・おもてなし
ホスト側のマナー
支払いについて
- ホストが全額支払うのが基本
 - トイレに立った隙に支払いを済ませる
 - ゲストの前で金額の話はしない
 
まとめ:日本の飲食店を楽しむために
最重要ポイント
- チップは不要
 - いただきます・ごちそうさまを言う
 - 音を立てて麺を食べるのはOK
 - 箸のタブーを避ける
 - 写真は手短に
 
心構え
日本の飲食店マナーは複雑に見えるかもしれませんが、基本は「他の客や店員への配慮」です。完璧である必要はありません。誠意を持って行動すれば、多少のマナー違反は許容されます。
楽しむためのアドバイス
失敗を恐れない
マナーを間違えても、謝れば問題ありません。日本人は外国人のマナー違反に寛容です。
積極的にコミュニケーション
言葉が通じなくても、笑顔とジェスチャーでコミュニケーションは可能です。
新しい体験を楽しむ
カウンター席での料理人との会話、居酒屋での他の客との交流など、日本独特の飲食文化を楽しんでください。
このガイドが、皆様の日本での食事体験をより豊かで楽しいものにする手助けとなれば幸いです。日本の食文化は奥深く、マナーを知ることでその魅力をより深く味わうことができます。ぜひ、日本での食事を心から楽しんでください!

