MENU

    荒川区で体験する江戸の職人技|100年続く工房めぐり

    「この技術は、私の祖父から父へ、そして私へと100年以上受け継がれてきました」

    荒川区の小さな工房で、職人がそう語りながら見せてくれた手さばきは、まさに芸術そのものでした。

    職人が伝統工芸品を制作している手元のクローズアップ

    2025年、Airbnbが荒川区を「世界の味覚の穴場」に選んだ理由は、グルメだけではありません。ここには江戸時代から脈々と受け継がれてきた職人文化が、今も息づいているのです。

    目次

    なぜ荒川区が「職人の町」と呼ばれるのか

    東京23区の北東部、隅田川に面した荒川区。江戸時代、この地域は城下町の外れにあたり、職人たちが集まって住む町でした。現在も区内には100人を超える伝統工芸の職人が活動しており、その密度は東京23区でもトップクラスです。

    驚くべきことに、その多くが見学や体験を受け入れているのです。観光地化された体験施設ではなく、実際に使われている工房で、本物の職人から直接学べる。これが荒川区の最大の魅力です。

    荒川区の工房が並ぶ下町の街並み

    荒川区で出会える伝統工芸

    つまみかんざし:指先に宿る江戸の美

    羽二重という薄い絹布を、小さなピンセットで花びらの形につまんでいく。一見単純そうに見えるこの作業、実際にやってみると指先がプルプルと震えてしまいます。

    「最初は誰でもそうですよ」と優しく笑う職人さん。3代目という彼女の手元では、まるで魔法のように美しい花が生まれていきます。

    つまみかんざしの完成品と制作途中の花びら
    • 体験時間:2〜3時間
    • 料金:2,000〜3,000円
    • 作れるもの:小さな花のブローチやヘアピン

    鍛金:金属に命を吹き込む

    カンカンカン。リズミカルな金槌の音が工房に響きます。平らな銅板が、叩かれるたびに少しずつ形を変えていく様子は、まるで生き物のよう。

    「金属にも性格があるんです。この音を聞いて、今日の調子を判断します」

    親子3代で営む鍛金工房では、伝統的な技法で茶器や花器を製作。見学だけでなく、簡単な小皿作りも体験できます。

    金槌で銅板を叩く職人の作業風景

    木版画:江戸の出版文化を支えた技

    浮世絵で有名な木版画技術も、荒川区で体験可能。版木に彫刻刀で絵を彫り、バレンで摺る。単純そうで奥深い、江戸時代から変わらない技法です。

    職人文化の拠点:荒川ふるさと文化館

    住所荒川区南千住6-63-1
    開館時間9:30〜17:00
    休館日月曜(祝日の場合は翌日)
    入館料大人100円、学生50円
    最寄駅南千住駅から徒歩10分
    荒川ふるさと文化館の外観

    まずはここから始めましょう。常設展示で荒川区の歴史と伝統工芸を学び、併設の「あらかわ伝統工芸ギャラリー」(入場無料)で実際の作品を鑑賞。週末には職人による実演も行われています。

    月例イベント「あらわ座」
    毎月開催される職人による実演・体験イベント。つまみかんざし、江戸切子、江戸風鈴など、月替わりで様々な工芸を体験できます。

    実際の工房見学・体験の流れ

    1. 事前予約(必須)

    ほとんどの工房は予約制。荒川ふるさと文化館(03-3807-9234)または各工房に直接連絡を。予約は1週間前までが目安です。

    2. 当日の流れ(つまみかんざし工房の例)

    10:00 工房到着
    住宅街の中にある普通の一軒家。看板もない外観に少し戸惑いますが、これが本物の証。

    看板のない普通の一軒家の工房外観

    10:10 職人の技を見学
    まずは職人の実演を20分ほど見学。息をのむような手さばきに、思わず「おぉ」と声が漏れます。

    10:30 いよいよ体験開始
    基本の「梅の花」から挑戦。最初は手が震えますが、職人さんが横について丁寧に指導してくれます。

    12:00 作品完成
    不格好でも自分で作った花には愛着が湧きます。職人さんが仕上げを手伝ってくれ、立派なブローチに。

    体験者が作った作品と職人の作品の比較

    12:30 お茶を飲みながら歓談
    「どちらから?」「この仕事を始めて40年になります」職人さんとの会話も貴重な体験です。

    年間イベントカレンダー

    7月:あらかわの伝統技術展

    年に一度の職人の祭典。荒川区役所に50人以上の職人が集結し、実演・体験・販売を行います。

    • 開催:7月第3土日(2日間)
    • 入場:無料
    • 見どころ:普段は会えない職人が一堂に会する貴重な機会
    伝統技術展で実演する複数の職人たち

    10月:モノづくり見学・体験スポットウィーク

    通常は予約が必要な工房が、この期間は予約なしで見学可能に。初心者にもおすすめの期間です。

    エリア別おすすめルート

    南千住ルート(初心者向け)

    午前:荒川ふるさと文化館でじっくり学習
    昼食:南千住駅周辺の下町食堂(定食800円〜)
    午後:事前予約した工房で体験(2〜3時間)

    日暮里ルート(繊維街散策付き)

    午前:日暮里繊維街で生地見学(つまみかんざしの材料も購入可)
    昼食:谷中銀座で食べ歩き
    午後:つまみかんざし工房で体験

    町屋ルート(都電散策付き)

    午前:都電荒川線で町屋へ、下町風景を楽しむ
    昼食:町屋の老舗そば屋
    午後:木版画または鍛金工房体験

    予算別プランニング

    節約プラン(1,000円以下)

    • 荒川ふるさと文化館見学:100円
    • 伝統工芸ギャラリー:無料
    • 職人の実演見学(イベント時):無料
    • 商店街散策:無料

    スタンダードプラン(3,000〜5,000円)

    • 文化館入館料:100円
    • 工房体験:2,000〜3,000円
    • 昼食:1,000円
    • お土産(小物):1,000円

    充実プラン(10,000円以上)

    • 複数工房での体験
    • 職人作品の購入
    • 特別な素材を使った体験

    外国人観光客への特別情報

    言語対応

    基本的に日本語での対応となりますが、身振り手振りと実演で十分理解可能。簡単な英語が通じる工房も増えています。

    三河島エリアの多文化共生

    荒川区の三河島エリアは、70年以上の歴史を持つ在日コリアンコミュニティがあり、本格的な韓国料理店が点在。工房体験の後に立ち寄れば、異文化交流も楽しめます。

    外国人観光客が職人から指導を受けている様子

    体験者の声

    「YouTubeで見るのと実際にやるのは全然違いました。職人さんの手の動き一つ一つに意味があることを知り、日本の文化の奥深さを感じました」

    田中さん(30代・東京都)

    「英語はほとんど通じませんでしたが、職人さんが本当に親切で、身振り手振りで教えてくれました。作った簪は今も大切に使っています」

    サラさん(アメリカ・26歳)

    まとめ:消えゆく技術を、今こそ体験する意味

    荒川区の職人たちの平均年齢は60歳を超えています。後継者不足で廃業する工房も少なくありません。だからこそ、今この瞬間に体験できることの貴重さを感じずにはいられません。

    観光地化された体験施設では味わえない、本物の職人との出会い。不器用でも構いません。大切なのは、100年以上受け継がれてきた技術に触れ、その価値を肌で感じること。

    3,000円と3時間があれば、江戸時代から続く職人文化の一端に触れることができます。次の東京旅行では、有名観光地だけでなく、荒川区の工房も訪れてみませんか。きっと、ガイドブックには載っていない、本物の東京に出会えるはずです。

    様々な伝統工芸品が並ぶギャラリーの風景
    よかったらシェアしてね!
    目次